靖国神社とは?246万余柱の御祭神を祀る神社
東京都千代田区九段北に鎮座する靖国神社(やすくにじんじゃ)。
大きな鳥居と長い参道、桜の名所としても知られる神社ですが、伊勢神宮や出雲大社などとは御祭神のあり方が大きく異なります。
靖国神社に祀られているのは、天照大御神や大国主命のような神話に登場する神ではありません。
幕末から明治維新、その後の戦争や事変などで亡くなり、靖国神社の御祭神として合祀された人々の神霊です。
現在、その数は246万6千余柱にのぼります。
靖国神社はいつできた?
靖国神社の始まりは、明治2年(1869年)です。
明治天皇の命によって、戊辰戦争などで新政府側として亡くなった人々を祀るため、東京・九段に「東京招魂社(とうきょうしょうこんしゃ)」が創建されました。
その後、明治12年(1879年)に「靖国神社」へと改称されます。
「靖国」という社号には、「国を安らかにする」という意味が込められています。
現在の靖国神社は、明治という新しい時代が始まった直後に創建された、比較的新しい歴史を持つ神社なのです。
靖国神社には誰が祀られている?
靖国神社には、幕末の嘉永6年(1853年)以降、明治維新、戊辰戦争、西南戦争、日清戦争、日露戦争、満洲事変、日中戦争、第二次世界大戦などに関連して亡くなった人々が御祭神として祀られています。
「戦争で亡くなった軍人を祀る神社」というイメージを持たれることもありますが、御祭神は軍人だけではありません。
軍属、従軍看護婦、戦場で救護にあたった女性、勤労動員中に亡くなった学生なども含まれています。
一方で、戦争で亡くなったすべての日本人が靖国神社に祀られているわけではありません。
空襲などで亡くなった一般市民を一律に祀っている神社でもなく、靖国神社の祭神として合祀された人々が祀られています。
246万人が一人の神様になっているの?
靖国神社では、246万6千余柱の神霊が御祭神として祀られています。
神道では神様を数えるときに「柱(はしら)」という数え方をします。
そのため、靖国神社に「靖国大神」という一人の神様が存在し、その神様だけを祀っているわけではありません。
もともと実在した一人ひとりの人間が、死後に御祭神として祀られているのです。
この点は、菅原道真公や平将門命、徳川家康、歴代天皇など、実在した人物が死後に神として祀られている日本の信仰ともつながっています。
ただし靖国神社の場合、一人の歴史的人物ではなく、非常に多くの人々が一つの神社に合祀されているところに大きな特徴があります。
なぜ亡くなった人が「神様」になるの?
日本の神様というと、天照大御神や須佐之男命のような神話の神々を思い浮かべるかもしれません。
しかし、神道で祀られる「神」は神話の神だけではありません。
山や海、岩、滝などの自然が神聖なものとして信仰されることもあれば、祖先や実在した人物の御霊が神として祀られることもあります。
たとえば菅原道真公は天満宮で「天神さま」として祀られ、徳川家康は東照宮で神として祀られています。
靖国神社もまた、実在した人々の神霊を御祭神として祀る神社です。
「英霊」とは?
靖国神社について調べると、「英霊(えいれい)」という言葉を目にすることがあります。
英霊とは、一般に国のために命を捧げた人々の霊を敬って表す言葉です。
靖国神社では、祀られた人々を御祭神として等しく祀るという考え方が示されています。
そのため、一人の神様の性格や神話を中心に信仰する一般的な神社とは、御祭神のあり方そのものが異なっています。
御祭神一人ひとりの名前も残されている
246万6千余柱という非常に多くの御祭神が祀られていますが、単に「大勢の戦没者」という形でまとめて祀られているわけではありません。
靖国神社には「霊璽簿(れいじぼ)」と呼ばれるものがあり、御祭神の名前などが記されています。
霊璽簿は、本殿のさらに奥に位置する「霊璽簿奉安殿」に納められています。
数だけを見ると想像しにくいものですが、その一柱一柱が、かつて実際に生きていた人々なのです。
靖国神社と桜
靖国神社は、東京を代表する桜の名所としても知られています。
境内には多くの桜が植えられ、春になると参道や境内が桜に包まれます。
そして靖国神社には、東京の桜の開花を判断するためのソメイヨシノの「標本木」があります。
ニュースなどで発表される「東京で桜が開花しました」という情報は、気象庁が靖国神社境内の標本木を観測して判断しています。
靖国神社と桜には歴史的にも深い結びつきがあり、現在でも春には多くの人が訪れます。
境内にある「遊就館」
境内には「遊就館(ゆうしゅうかん)」という施設があります。
遊就館では、靖国神社の御祭神に関係する遺品や資料をはじめ、幕末から近代日本の戦争に関するさまざまな資料が展示されています。
靖国神社がどのような歴史の中で成立し、どのような人々を御祭神として祀ってきたのかを知ることのできる施設です。
一方、近代日本の戦争をどのように捉えるかについてはさまざまな立場があり、遊就館の展示内容や歴史観についても異なる評価があります。
なぜ靖国神社は現在も議論になるの?
靖国神社は、現在でも政治や外交に関するニュースで取り上げられることがあります。
その大きな理由の一つが、第二次世界大戦後の極東国際軍事裁判、いわゆる東京裁判でA級戦犯として有罪判決を受けた人々なども、後に靖国神社へ合祀されたことです。
このため、首相や閣僚など公的な立場にある人物による参拝については、戦没者を追悼する行為と捉える見方がある一方、過去の戦争に対する日本の姿勢に関わる問題として捉える見方もあります。
また、日本国内では政教分離との関係が議論されることもあります。
靖国神社をめぐる問題には、宗教だけでなく、近代史、戦争、追悼、政治、外交など、さまざまな問題が重なっています。
「戦争」を祀っている神社ではない
靖国神社について誤解されやすい点の一つが、「戦争を祀っている神社」というイメージです。
靖国神社で御祭神として祀られているのは「戦争」そのものではありません。
祀られているのは、幕末以降の戦争や事変などに関連して亡くなり、御祭神として合祀された人々の神霊です。
ただし、その人々がなぜ亡くなり、なぜ靖国神社に祀られるようになったのかを理解するためには、日本の近代史や戦争の歴史と切り離して考えることはできません。
「神社」という宗教的な場所でありながら、日本の近代史そのものとも深く結びついていることが、靖国神社の大きな特徴です。
靖国神社に「ご利益」はある?
靖国神社は、「縁結び」「金運」「学業成就」のように、特定のご利益で広く知られる神社とは少し性格が異なります。
中心となっているのは、御祭神を祀り、その神霊を慰め、感謝を捧げることです。
また、靖国神社では国家安泰、家内安全、厄除け、交通安全、社業繁栄などの祈願も行われています。
特定の願いを叶えてくれる一柱の神様を祀るというより、246万6千余柱の御祭神に感謝を捧げ、平安を祈る場所という性格を持っています。
実在した人々が「神」として祀られる場所
日本の神社を巡っていると、神様にはさまざまな成り立ちがあることに気づきます。
天照大御神や須佐之男命のような神話に登場する神。
山や海、川など自然と深く結びついた神。
菅原道真公や平将門命のように、実在した人間が死後に祀られた神。
そして靖国神社では、幕末以降の日本の歴史の中で亡くなった246万6千余柱もの人々が御祭神として祀られています。
一人の有名な神様を祀る神社とはまったく異なる成り立ちを持つ靖国神社。
その歴史を知ることは、日本人が「人の死」と「御霊」、そして「神」という存在をどのように捉えてきたのかを知ることにもつながっています。
