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猿

さる
さる

神使としての猿(さる)

猿は、日本の神社信仰の中で古くから特別な意味を持ってきた動物です。なかでも滋賀県の**日吉大社(ひよしたいしゃ)**では、神様のお使いとして大切にされ、「神猿(まさる)」と呼ばれています。

「神猿」と書いて「まさる」と読むのには、興味深い意味があります。

「魔が去る(まがさる)」、そして「何事にも勝る(まさる)」という言葉に通じることから、猿は魔除け・厄除け・勝運をもたらす縁起の良い存在として信仰されてきました。

日吉大社と猿との関係には、その土地の自然が深く関わっています。

日吉大社が鎮座する比叡山の麓には古くから猿が生息しており、山を神聖な場所と考えていた人々にとって、そこに暮らす猿もまた神様と近い存在として捉えられるようになったと考えられています。

山の中を自在に動き、人間よりも高い木々を軽々と登る猿。その姿には、人が暮らす世界と神聖な山の世界を行き来するような神秘性が感じられたのかもしれません。

日吉大社は、全国に広がる**山王信仰(さんのうしんこう)**の中心となる神社です。平安時代以降、比叡山の延暦寺との結び付きが強まり、山王信仰が各地へ広がるにつれて、神猿の信仰も全国へ伝わっていきました。

そのため現在でも、日吉神社、日枝神社、山王神社などでは、猿にまつわる像や意匠を見ることがあります。

特に有名なのが、東京都の日枝神社です。

一般的な神社では社殿の前に狛犬が置かれることが多いですが、日枝神社では猿の像を見ることができます。夫婦の猿や子猿を抱いた姿などもあり、神猿は魔除けや勝運だけでなく、夫婦円満・良縁・子授け・安産・家内安全などとも結び付けられています。

猿には、もう一つ興味深い側面があります。

猿は群れをつくって生活し、親子の結び付きが強い動物です。子どもを抱きかかえて守る母猿の姿は、人間にもどこか身近で温かな印象を与えます。こうした生態や姿も、家族を守り、良い縁を結ぶ存在として親しまれてきた背景の一つでしょう。

また、「猿(さる)」という名前そのものが、日本ではさまざまな言葉と結び付けられてきました。

「魔が去る」「災いが去る」「厄が去る」といった語呂合わせは、言葉に吉兆を見いだしてきた日本の信仰文化ともよく合います。そこへ「勝る」という意味も重なり、神猿は悪いものを遠ざけ、物事を良い方向へ導く存在として受け入れられていきました。

日吉大社には現在も「神猿舎(まさるしゃ)」があり、神猿を身近に感じることができます。また、境内の建築にも猿の姿が見られるなど、猿と日吉大社との深いつながりを随所で感じることができます。

神使としての猿は、神様そのものではありません。

しかし、比叡山という神聖な山とともに生き、日吉・山王の神々に仕える存在として、長い歴史の中で人々から大切にされてきました。

そして神猿に込められた意味は、単なる「勝負に勝つ」というものだけではありません。

災いを遠ざけ、大切な縁や家族を守り、より良い方向へ進んでいく。

そんな願いを託すことのできる存在だからこそ、猿は現在まで神社の中で親しまれ続けているのでしょう。

日吉大社や日枝神社を訪れた際には、社殿だけでなく境内にいる猿たちにも注目してみてください。「まさる」という名前に込められた意味を知ると、かわいらしい猿の姿の向こうに、長い山王信仰の歴史が見えてきます。

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